SDMの概念-2. SDMの構成要因

SDMの概念

2. SDMの構成要因

SDMは患者(受診者)中心主義の考え方を、臨床の場で実践するための手段である1)。SDMに期待されるのは知識の増加だけではなく、究極的には健康アウトカムや臨床経過の改善にある2)

その過程には、患者(受診者)の価値観を踏まえ、患者(受診者)・医療者間の信頼関係を築くための多様な要因を包含している3)。SDMのプロセスは単純化できるわけではなく、医療者と患者(受診者)が柔軟に情報交換と検討を行うことが求められており、多くの研究でそのプロセスが検討されてきた。ただし、代替案の提示と患者(受診者)の価値観を踏まえることが必須条件となっている4)

SDMの方法として、予防対策に限らず、臨床現場での汎用性という観点から作成されたのが「3 Talk Model」5)である。SDMの核となるのは患者(受診者)の自己決定権の行使であり、医療者は意思決定を支援する立場に位置付けられている。その目標に達成するプロセスとして、「3 Talk Model」はTeam Talk、Option Talk, Decision Talkの3段階から構成される(表 2)。基本的な構成要因は、後述の The U.S. Preventive Services Task Force (USPSTF)と共通しているが、Team Talkの段階で患者(受診者)・医療者の協力関係を構築することと代替案を検討する場合にも個人の価値観や不確実性をじっくりと検討することが必要としている。

表 2.3 Talk Model5)
Team Talk ・協力関係を築く
・代替案を提示する
・よく考える余裕を与える
・次の行動を確認する
・結論を急がない(延期する)
Option Talk ・知識を確認する
・代替案をリスト化する
・代替案を説明する
・利益・不利益を説明する
・患者(受診者)のための意思決定ツールを提供する
・総括
Decision Talk ・患者(受診者)の価値観に注目する
・価値観を明確化し、統合する
・意思決定
・結果を復習する

一方、USPSTFでは、SDMの評価を行った8研究について、SDMに含まれるべき構成要因を検討している4)。なかでも、Braddockらの研究は基本的な項目を網羅していた(表 36)。この基準に基づき、USPSTFの推奨グレードCの予防対策への対応を検討したところ、患者(受診者)の役割、意思決定、利点・欠点、患者(受診者)の価値観に関連する情報は含まれていたが、代替案や患者(受診者)の満足度についての情報は欠落していた。

表3. SDM構成要因と検討事項6)
SDM構成要因 検討事項
意思決定過程における患者(受診者)の立場を検討する 患者(受診者)が意思決定に参画する
臨床的な課題や意思決定の過程を検討する 可能性のある予防対策を特定する
選択肢(代替案)を検討する 選択肢(代替案)を特定する
代替案の利点(可能性のある利益)と欠点(リスク)を検討する 代替案の利点(可能性のある利益)と欠点(リスク)を示す
意思決定に伴う不確実性を検討する 代替案の科学的根拠の不確実性を示す
患者(受診者)の理解を評価する 代替案に対する患者(受診者)の理解を促す
患者(受診者)の価値観を外挿する 意思決定過程における患者(受診者)の価値観の重要性を明確化する
文 献
  1. Barry MJ, Edgman-Levitan S. Shared decision making–pinnacle of patient-centered care. N Engl J Med. 2012;366(9):780-781.
  2. Légaré F, Ratté S, Gravel K, Graham ID. Barriers and facilitators to implementing shared decision-making in clinical practice: update of a systematic review of health professionals’ perceptions. Patient Educ Couns. 2008 Dec;73(3):526-35.
  3. Joseph-Williams N, Elwyn G, Edwards A. Knowledge is not power for patients: a systematic review and thematic synthesis of patient-reported barriers and facilitators to shared decision making. Patient Educ Couns. 2014;94(3):291-309.
  4. Eder M, Ivlev I, Lin JS. Supporting Communication of Shared Decision-Making Principles in US Preventive Services Task Force Recommendations. MDM Policy Pract. 2021;6(2):23814683211067522.
  5. Elwyn G, Edwards A, Thompson R (ed.). Shared Decision Making in Health Care. Achieving evidence-based patient choice. Third Edition. Oxford University Press, 2016.
  6. Braddock 3rd CH, Edwards KA, Hasenberg NM, Laidley TL, Levinson W. Informed decision making in outpatient practice: time to get back to basics. JAMA. 1999;282(24):2313-20.